日本の八百万の神様は、人間と同じように神様を生みます。さらには日本列島も神様の子どもとして生まれました。
世界のはじまりが記されていない
日本の国土と国家の誕生は、8世紀に編纂された「古事記」と「日本書紀」に神話として記されています。「古事記」と「日本書紀」の記述は若干異なりますが、ここでは「古事記」を中心に日本のはじまりを紹介しましょう。
日本神話が世界の多くの神話と大きく異なる点は、神様が誕生する前にすでに世界が誕生している点です。最初に生まれる神様は自然発生的に生まれ、その理由は記されてはいません。自然豊かな日本では、生命が次から次に生まれる姿を当然のように受け入れていたのでしょう。
世界が生まれた後に、別天津神と呼ばれる五神が、その次に、神世七代と呼ばれる七世代の神々が生まれます。この神世七代の最後に生まれた伊邪那岐命とその妻伊邪那美命が多くの神々と日本列島を産む神様です。
二神は、天沼矛を使って混沌とした地上世界をかき混ぜ、この矛からしたたり落ちてオノゴロ島と呼ばれる小島ができました。二神はこのオノゴロ島に降り立ち、世界で初めての婚礼の儀式を行い、その子どもとして日本列島が生まれます。
伊邪那美命は、淡路島にはじまり、伊予(四国)、隠岐、筑紫(九州)、壱岐、対馬、佐渡島、大倭豊秋津島(本州)を次々に産みます。これらの島々は古代の日本において特に重要な地だったことを意味します。最初に生み出された淡路島では、ヤマト王権が誕生する前の弥生時代の祭祀具である銅鐸が大量に出土しています。また北海道が含まれていないのは、ヤマト王権の勢力圏外だったからでしょう。この「国生み」によって生まれた島は8つだったことから、日本は大八洲(大八島)と呼ばれるようになりました。その後も二神は島々を次々と産み、日本列島を形成しました。
こうして元々の世界である天上世界・高天原と地上世界・葦原中国が分かれ、さらに地上世界からの死者の国である黄泉の国が生まれました。中国とは高天原と黄泉の国の中間の国という意味です。
最高神・天照大神の誕生
日本列島を産んだ後に、二神は日本の自然風土を構成する神々を次々と産みます。しかし、伊邪那美命が火の神を産んだ際に火傷を負い、死んでしまいました。伊邪那岐命は妻の死を悲しみ、生者が踏み入れてはいけない黄泉の国を訪れます。
やっとのことで再会した二神でしたが、伊邪那美命の腐乱した姿に驚いた伊邪那岐命は慌てて葦原中国へと逃げ帰ってしまいます。この黄泉帰りと似た物語がギリシャ神話にもあります。亡くなった妻を連れ戻しに冥界を訪れたオルフェウスは見てはならないという約束を破ったため、妻は冥界へと引き戻されてしまうという神話です。死への恐れと死者への禁忌は世界共通のものと言えるのでしょう。
伊邪那岐命は黄泉の国の穢れを祓うために禊を行いました。このとき、左眼を洗うと天照大神が、右目を洗うと月読尊が、鼻を洗うと素戔嗚尊が生まれました。伊邪那岐命は、天照大神に高天原を、月読尊に夜の国を、素戔嗚尊に産みの国を、それぞれ統治するように命じました。天照大神は神々の世界を統治する最高神となったのです。ここでも世界の神話と大きく異なる点がわかります。
多くの神話では、最初に生まれた神が最高神となり、すべてを創造する場合が多いですが、天照大神は最初に生まれたわけではなく、世界を創造したわけでもありません。どのような大人物も、祖先がいなくては誕生できないという祖先崇拝の基本が読み取れます。