祖先崇拝 神様は日本人のルーツ

東アジア圏にしかない祖先崇拝

記紀神話では、皇室や豪族の先祖である神様が多く描かれています。多くの宗教では、神は完全無欠な存在で、愚かな人間とは完全に隔絶した存在です。ではなぜ日本では神様と人がつながっているのでしょうか。ある神社のご祭神の神霊を分霊してほかの神社にも祀る勧請について前述しました。神様と子孫の関係もこの分霊と同じと言えます。人が生まれた際には「明き、清き、直き、正しき」存在であるのは、神様の分霊であるからなのです。

実は、祖先崇拝の習慣は、東アジア圏と一部南洋諸島にしか存在しません。例えば、欧米では祈りは神様に向けて行うものであり、墓の前で個人に祈りを捧げることはありません。親族の墓の前で「どうか守ってください」といった祈りを行う行為は日本人にとっては当たり前のことに思えますが、これは先祖を神様と自然に捉えているからです。

神社誕生の原点にあった祖先祭祀

記紀神話には豪族の祖先神が登場しますが、この一族(氏族)の祖先神を氏神といい神社に祀りました。原罪では氏神神社の周辺地域の人々すべてを氏子として、その土地の神様である産土様と同じ意味で使われます。もともと村や里単位であった神社はその地域一帯を守護する神様として祀られてきました。これは祖先崇拝が共同体全体へと拡大していったからです。祖先崇拝は禊と並んで神社の核となる要素のひとつと言えます。

祖先崇拝の考え方は仏教的と思われるかもしれませんが、もともと仏教は悟りを開くための宗教、仏に対する信仰であり、祖先は関係ありませんでした。日本の仏教が葬送儀礼を重視するようになったのは江戸時代の檀家制度(民衆は定められた寺の檀家になる制度)からです。それまで村単位で行われていた葬儀が寺による葬式に一般化したためです。日本では近代になるまで神道と仏教は緩やかに融合していましたので、違和感なく祖先崇拝が仏教行事に取り入れられたのです。